新潟開催回(2020年12月)レポート

【開催概要】

プログラムの詳細はこちら

[開催日] 令和2年12月1日(火)・2日(水)

[会場] 上越市民プラザ・町家交流館 高田小町(新潟県上越市)

[募集定員] 84名(一般60名/福祉職従事者16名/学生・新任者8名)

[参加人数] 47名(一般15名/福祉職従事者11名/新任者4名/出演者1名/関係者16名)

[開催委員会構成法人] (社福)のぞみの家福祉会、(社福)ロングラン、(株)まごころネット、(社福)七穂会、(社福)とよさか福祉会、(社福)中越福祉会、(社福)みんなでいきる

 

新型コロナウイルス感染症の拡大が続くなか、共生社会フォーラムin新潟では、事前に二度の開催委員会をリモートで開催し、当日のプログラムや講師の講演方法を修正・変更するなど、関係の皆様方のご協力ご支援もあって、当初のスケジュールどおり2日間のプログラムで開催することが出来ました。

開催前日に、(社福)みんなでいきる 法人本部企画課長の坂野健一郎さんはじめ開催委員会委員・メンター予定者の事前打ち合わせを行い、また、皆さんの協力により受付で配布する資料の袋詰などの準備をスムースに終えました。

初日の1日(火)朝8時半に開催委員会と事務局スタッフの皆さんが、ショッピングセンターを改装して開設された上越市民プラザに集合し、受付や会場案内の準備が進められました。

一般参加者として、開催地の新潟県ならびに隣接の長野県および岐阜県から、福祉施設・事業所の方々に加え、自治体、医療法人、特別支援学校などから参加がありました。中堅研修には、新潟県ならびに埼玉県および愛知県から福祉施設・事業所などからの参加があり、学生・新任者研修には、福祉現場職員4名の参加がありました。一般参加者・研修受講者・運営関係者 合計47名に参加していただきました。フォーラムの方向性として“地域主体”を掲げていますが、コロナ禍による制約があるにもかかわらず、地元協力法人のご尽力による事前の周知や参加、準備を含めて設備の整った施設の使用など、様々な面で行き届いた配慮をいただきました。

フォーラムは、坂野さんの進行により厚生労働省の吉元企画課課長補佐の挨拶で始まり、表現活動として、YOHKOさんによるパフォーマンスとトークを行っていただきました。YOHKOさんは、新潟市内で活動するパフォーマーで、2017年に開催されたパフォーマー公開オーディション事業「あしたの星☆」と翌年の「あしたの星☆2」に出演され、カオス賞を受賞されています。まずは、音楽に合わせてダンスと歌唱の披露があり、ご自身の活動がコロナ禍で制限されている鬱積した思いをトークで表現されました。後半は、進行の坂野さんとの絶妙な掛け合いで対談があり、会場の参加者にカオスのリアルを体験してもらいました。

続いて、実行委員会委員でジャーナリストとして長年活躍され、やまゆり園事件の利用者支援の検証委員も務められた野澤和弘さん(植草学園大学副学長・糸賀財団理事)から「かけがいのない いのちの発信 2020 福祉の思想の伝え方」の基調講演がありました。会場にお越しいただく予定でしたが、新型コロナウイルス感染再拡大の状況を踏まえ、フォーラム向けに収録したビデオによる講演となりました。

野澤さんは、冒頭で、「福祉職員は、現場で起きていることを基点にしながら、自らの仕事を振り返り、二度とこういう事件を生まないように、さらには障害のある方たちに幸せな人生を送ってもらうための支援を考える契機にしなければいけない」と提言され、やまゆり園事件の概要、福祉関係者の視点(施設での勤務中の出来事や人間関係の中に動機につながる何らかの要因があったと見るのが常識)、国の検証、犯人の主張(私は結果を出した。あなたはどんな答えがあるのか)、神奈川県が設置した「検証委員会」の調査結果(長期間に及ぶ身体拘束等)、横浜地裁で断定された動機(やまゆり園での勤務経験を基礎として形成された)などが紹介されました。

そして「これほど世の中を震撼させた事件の背景には、現場でうすうす感じている職員が意外に多いと思われることや、育成会が事件直後に出した声明文に対して多くの誹謗中傷があったことがあり、犯人の考えが一人の特殊な意見ではない」「障害者は社会を不幸にする、という犯人の優生思想に基づく考えに対して、我々はもう一度対抗軸を構築していかなければいけない」「福祉の原点を思い出して、福祉の仕事の素晴らしさをもう一度職場から確認していく必要がある」という強いメッセージが、戦後間もない優生思想の逆風のなかで発せられた糸賀思想(この子らを世の光に=どんな重症の子どもたちも光っており自己実現している)の紹介とともにありました。

「わが国では、医療技術の進歩により重症心身障害児の命が守られ、医療的ケアが必要な子どもたちや神経難病のALS患者も人工呼吸器をつけて地域で暮らせるようになった」「一方で、生殖医療の代理母主産、出生前の遺伝子診断による堕胎など、知的な能力や健康・身体的優位を過度に求める価値観が今日の社会にある。その背景には、格差社会をもたらす思想があり、自分の力で勝ち抜き、優位な立場に立つという欲求が必然的に膨れ上がる」と解説されました。

「やまゆり園事件の後もALS患者の嘱託殺人で二人の医師が逮捕・起訴された。現実的に命を考える時代であり、なぜ、困っている人にカネを出すのか?に正面から答えを見つけないといけない」「重度の障害のある人は生産性がないと否定的に見られている」というお話があり、糸賀一雄氏の『この子らはどんなに重い障害をもっていても、だれと取り替えることもできない個性的な自己実現をしている』『その自己実現こそが創造であり、生産である。私たちのねがいは、重症な障害をおったこの子たちも立派な生産者であることを、認めあえる社会をつくろうということである』という共生社会に通じることばを紹介し、「大江健三郎氏など重度障害児の親たちがあらゆる分野で子どもから受けたものを社会に発している」「親たちは疲れているかもしれないが決して不幸ではない」ということを、新聞記者が丹念な取材でWEBに掲載した被害者家族のインタビュー記事とともに紹介されました。

「これからの時代に、違う個性を認めない偏狭な考え・優生思想は一番不適で、互いの個性や価値観を認め、譲り合い、支え合ってその多様性を大事にすることが必要」「東大生の自主企画・運営の“障害者のリアル”ゼミで、瞼の動きで話されるALS患者の岡部さんからの『体が動かないのは確かに不自由だが、心が動かない不幸の方が、私には耐えられない』君たちの心は動いているのか、という問いかけに、学生たちは言葉を失い心が揺さぶられた」「自分の中に中心をつくり、組織の同調圧力に流されない意志とソーシャルワーカーとしての矜持を持ち社会課題を洞察し解決に向かう理性・良心をしっかりと身に着けてほしい。やまゆり園事件から我々が教訓を得られるとすれば、一人一人が覚醒し、自分の仕事にプライドを持ち、障害のある人を幸せにしていくこと。これしかあの事件を乗り越えていく道はなく、日本・世界にとっても大事な価値観を築きあげていく第一歩となるに違いない」というメッセージで基調講演が終了しました。

初日の午後は、今回のフォーラムに向けてNHK厚生文化事業団の福祉ビデオライブラリーに登録されたNHKスペシャル・ラストメッセージ第6集「この子らを世の光に」(2007年3月放送)の上映がありました。いつもは、上映後に番組を制作した牧野望(のぞむ)チーフプロデューサーのトークがあり、番組制作の経緯や背景、取材で福祉現場に入るときの感想、参加者へのメッセージをいただくのですが、今回は、基調講演と同様、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、上映のみとなりました。

一般参加者と研修参加者がともに参加する共通プログラムが終了したのち、新任者グループと中堅職員による語り部養成研修グループに分かれて、2日間のグループワークが始まりました。

新任者グループは、4人が参加し、「バリバラ」でおなじみの玉木幸則さんと滋賀の救護施設で働く新採3年目の御代田さんが進行しました。1日目は、たっぷり自己紹介に時間を割き、それぞれの現場の風景やこれまでの仕事を話してもらいました。後半は、YOHKOさんのパフォーマンス、野澤さんの基調講演、糸賀一雄さん(NHKスペシャル)について、それぞれ、感想をシェアし、生まれてきた問いを深めながら、各自の現場での問いにつなげて考える形で、議論を進めていきました。

中堅職員による語り部養成研修には、施設・事業所の管理者、サービス管理責任者、相談支援専門員、アートディレクターなど管理職の方12人が参加しました。うち2名は、新型コロナウイルス感染拡大の状況下で急遽の参加見合わせがあり、適正規模のグループ編成を保つため、メンター候補者であった開催委員会メンバーが入ることとなりました。密を避けるため1グループ4人の受講者に限定し、3テーブルに分かれ、各テーブルに1名ずつメンターを配置しました。地元新潟県の(社福)みんなでいきるの坂野さんがワークシートとスライドを用いて進行し、補助役として、とんがるちから研究所の近藤さんが配置につきました。助言者には、開催委員会委員長で(社福)のぞみの家福祉会の坂井さんと、当フォーラムのレギュラーメンバーで、メンター・助言者・全体進行のオールラウンドプレーヤーとして活躍していただいている埼玉県で活動する(社福)清心会の岡部さんと(社福)昴の丹羽さんがサポートしました。

プログラムについては、今年度の改良版を基本としましたが、質を落とさずに感染リスクを下げるため、全体的に時間短縮され、初日と二日目の冒頭に行う恒例のグループメンバーの関係づくりのためのアイスブレイク(初日:言語以外のコミュニケーション手段により誕生の月日順に並ぶ 二日目:形を言葉に直し、言葉で形を伝える)も省略しました。

初日は、①基調講演等を見て感じたこと、共生社会とは何か等の個人ワークと模造紙とポストイットを使用してのグループ共有、その状況についての発表がグループごとに行われました。

メンターによる全体発表を受けて、岡部さんから講評があり、「何気なく使っていたフレーズで、自分ではこうだと思っていたことが、いろんな方の言葉によって違う感じ方・捉え方もあることに気付かされたが、人の意見に対して否定をせず、そういう見方・考え方もあるんだいうとらえ方を養うことがすごく大事で、それが共生社会に繋がる」「このフォーラムは、ただ学ぶだけでなく、語り部養成研修により、私達は糸賀思想を学びながら、それを持ち帰ってまた地域において皆で語っていく、そのことを進めるのが一番の願いであり、大きなテーマ」「のちほど育成会の久保会長がビデオで熱っぽく語られるが、誰もが心の奥底に持つ内なる差別感、自分が持つ弱さをいかに伝えられるか、いかに表に出せるか、ということが共生社会に繋がっていく。この二日間でどんどん出していただき、皆で共有・共感してほしい」というお話しがありました。

2日目のセッションに向けて、相模原障害者殺傷事件を振り返り、様々な意見や価値観と向き合う時間を持ちました。今年度のテキスト資料には、3月に宣告があった判決と事件を綿密に取材した神奈川新聞社の記者座談会を追録していますが、実行委員会座長代理で一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会の久保厚子会長により鹿児島フォーラムでお話いただいたビデオメッセージをプログラムに加えました。久保さんにより、事件直後の本人・家族の不安な気持ち、声明文やメッセージを出した経緯、犯行に賛同する声があったこと、判決終結に対する残念感、記者座談会で紹介された犯人の主張などの紹介をいただきました。そして、重度の障害がある親として「よくコケるから「安全のために」車いすにしばるということが日常的にあったと聞いた。親は“安全であってほしい”と思っても、しばってほしいとは思っていませんよっ!」という強い思いと、また、入所施設・通所事業所の経営者としての立場から、「自分も含めて誰にもある心の奥底にある気付かない差別的意識をどうコントロールするのか。答えが出ずに、とてもモヤモヤしてつらいかも知れないが、是非、自分の弱さを押し込めるのではなく認めながら、みんなでどう乗り越えていくのか議論していただきたい」という熱いメッセージがあり、初日の幕を閉じました。

2日目は、上越市が管理する「町家交流館 高田小町」に会場を移しました。この会館は、明治時代に建築された町家「旧小妻屋」を再生・活用した交流施設で、集会、イベント、文化活動のほか、城下町高田のまちなか散策の休憩・案内所としても利用されているとのことです。この日は、②やまゆり園事件をどう受け止めるのか、全育連の声明への反応に対して各自が思うところをグループで共有するセッション ③職場や地域で取り組む基本理念普及のアクションプランを各自が考え、グループでブラッシュアップするセッションが行われました。


午後のセッション開始前、新任者と中堅職員のグループとが一緒になり、豪雪地帯ならではの樹木を風雪の害から守る「雪囲い」が施された中庭で写真撮影を行いました。皆さんの清々しい笑みが、モヤモヤ感を持ちながらも、明日からの行動につながる手ごたえを感じていただいたことを表しています。

新任者グループは、ギャラリーとしても使われる町家の土蔵を会場とし、とても良い雰囲気の1日でした。午前中は「障害とは?」「福祉とは?」という2つのテーマで意見交換し、その後の玉木さんのお話を受け、障害の社会モデルの意味や「福祉は社会のみんなの幸せのためにある」ことを、自分の経験を振り返りながら、丁寧に確認する時間となりました。午後のテーマは「共生社会」。「やまゆり園の事件を初めて聞いたとき、どう受け止めたか?」「何をさして、共生社会と呼ぶのか?」といった投げかけから、入所施設特有の性質や、支援職としての葛藤など、各自のリアルな想いを言葉にしてもらいながら掘り下げていきました。最後に玉木さんから自身の生い立ちや、優生思想がまだ根付いている今の社会についてお話しいただき、「今回の研修は、明日の現場で役立つものではないけれど、モヤモヤを抱えながら生きることが、何かを変えるきっかけになるはず」と確認しあい、2日間の濃密な研修を終えました。

中堅グループのアクションプラン作成が終了した後、総括として、丹羽さんからは「共生社会は一足飛びにはできないので、対話を続けてほしい。糸賀一雄氏の『自覚者は責任者』という言葉は、問題・課題を自覚した人が責任をもって取り組むということ。ただ、一人ではできないので、仲間や地域のなかで取り組んでほしい」というエールがあり、岡部さんからは「この研修は、答えのないものに向き合い物事のとらえ方を学ぶことと、もう一つは、ことば探し。この三年を通じて、素敵な言葉に巡り合えた。うまく伝えられない“こんな感じ”を言語化できない自分がいて、この研修を通じて誰かから発せられた言葉に”ああ それだった”と出会える」「今までの研修は、資格の更新やテクニカルなもので学んで終わったというのが多い。立ち止まって自分の考えや自分自身を見つめ直しブラッシュアップしていく継続性が大事。1月の岡山での全体フォーラムでは、みんなが語って作り上げた研修スタイルを報告し合い、お互いを励まし合う」「自分たちで出来ることを失敗しながらも繰り返しやってみることで、共生社会の新しい光が見える」という講評がありました。

最後に、地元開催委員会委員長で(社福)のぞみの家福祉会の坂井隆一さんから「皆さんの熱量がすごく、私も参加したくてウズウズしていました。最後のアクションプランではありませんが、職場に戻ったら、どこかで必ずやろうと考えています。共生社会というものの多様性であるとか、物事の多面性。それからいろんな価値基準、自分自身や他者の思いであったり感情や思考と向き合ったり、受け止めたり、掘り下げたり、ほじくり出したり。そういうことをしながら見つけ出した、引き継いだ、出会った、巡り合えた“言葉”というのは、なにかしら力を宿すんだろうな、というふうに皆さんの話を伺っていて、とても強く感じることができました。その言葉をもって、皆さんのフィールドで“語らい・語り合い”を是非続けていただければいいな、と感じました。みんなで頑張りましょう。」という閉会の挨拶があり、全てのプログラムが終了しました。

今年度のフォーラムがコロナ禍のなかで、日程が遅れながらも9月の鹿児島でスタートし、10月には、地域分散型の新たな取り組みとして1日間の福祉職等研修会を4会場で開催し、今回の新潟フォーラムでは、プログラムに時間短縮の変更を加えつつ成功裏に終えることができたのも、当初から熱心にプログラムを考え、実施を支えていただいた実行委員会やワーキンググループの皆さんと、講師や受講者のおかげですが、何よりも絶大なご支援ご尽力をいただいた地元協力法人の役員、スタッフおよび開催地のメンターの皆さんのおかげです。

とりわけ、事務局を務めていただいた社会福祉法人みんなでいきるの皆様の献身的な働きと心配りに対しまして、言葉では言い尽くせませんが、心から感謝を申し上げ、報告といたします。

takecomai