鹿児島開催回(2020年9月)レポート

【開催概要】

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[開催日] 令和2年9月29日(火)・30日(水)

[会場] かごしま県民交流センター(鹿児島県鹿児島市)

[募集定員] 84名(一般60名/福祉職従事者16名/学生・新任者8名)

[参加人数] 88名(一般40名/福祉職従事者16名/新任者7名/講演4名/関係者21名)

[開催委員会構成法人] 鹿児島市知的障がい者施設連絡協議会、(社福)ゆうかり、(社福)南高愛隣会、(社福)はる、(特非)さんえす、九州ネットワークフォーラム

 

世界的な新型コロナウイルス感染拡大を受けて、大幅にプログラムや年間スケジュールを変更しましたが、関係の皆様方のご協力ご支援により、ようやく9月からスタートすることができました。今年度は地域主体のフォーラム開催”とともにファシリテーター(メンター)からのステップアップとなる全体進行役の養成・確保”です。4月15日に資料送付によりワーキンググループ各メンバーの意見集約を行い、5月14日開催予定であった第1回実行委員会は、国の緊急事態宣言を受け延期となり、6月15日の会議を協議資料の持ち回り開催とし、新型コロナウイルス感染拡大の収束パターンを反映した事業実施の方針が決定されました。7月1日には、リアルな会議開催方式の第1回WG会議で、従来の集合形式のフォーラム開催と分散・同時進行型または分散・別途進行型で開催するという新型コロナ感染拡大の状況を見据えたフォーラムの開催方法を検討しました。また、10月に地域分散・別途進行型の研修を4地域で開催する前提でのプログラム検討会議(7月27日と、各会場での全体進行役やファシリテーター(メンター)の配役決定と全体進行の演習を内容とする事前研修会9月7日をいずれも滋賀大学サテライトプラザで開催しました。

開催前日の9月28日(月)に(社福)ゆうかりの基幹相談支援の拠点で理事長の水流源彦さんはじめメンターの事前打ち合わせと、法人のスタッフの皆さんの協力をいただき、受付で配布する資料の袋詰などの準備をスムースに終えました。

初日の29日(火)朝8時半にゆうかりのスタッフとメンターの皆さんが集合。地元協力法人の水流理事長の挨拶を皮切りに、受付係や会場案内係などに分かれ、限られた時間内にチームワークで準備が進められました。

一般参加者として、開催地の鹿児島県ならびに開催ブロックの福岡県および熊本県から、福祉施設・事業所の方々に加え、自治体、医療法人、議員など参加いただきました。中堅研修には、鹿児島県はじめ、福岡県、熊本県、宮崎県、沖縄県から福祉施設・事業所、医療機関、自治体、国機関など多方面からの参加があり、学生・新任者研修には、大学生2名と福祉現場職員5名の参加がありました。一般参加者・研修受講者・運営関係者合計88名に参加していただきました。今年のフォーラムで“地域主体”を掲げていますが、コロナ禍による制約があるにもかかわらず、地元協力法人のご尽力による事前の周知や参加、準備を含めてアクセスの良い施設の使用など、様々な面で行き届いた配慮をいただきました。

フォーラムは、厚生労働省の鈴木企画課係長と開催委員会の水流委員長(ゆうかり理事長)の挨拶で始まり、フォーラムのオープニングとして、表現活動やアフォーダンスを軸とした障がいのある人の行動理解などの講演「ありがままがあるところ」と映像紹介を、鹿児島県で知的障がいのある人のさまざまな表現活動を通じて多岐にわたる社会とのコミュニケート活動をプロデュースする「工房しょうぶ」の設立者の福森伸(ふくもりしん)さんに行っていただきました。「入職当時の施設では、助けを受けるのが当たり前で、非常に悔しかった。共助の精神・フィフティフィフティが大切であるのに、出来ないことに焦点をあてることが支援とされており、支援プランのなかにストレングスの視点がなかった。与えられる側から創り上げる側になるため、福祉ブランドを作りだす芸術アート活動を展開してきた。可能性の枠を広げて、構築する可能性と何かを破壊するブチ壊す可能性を追求し、人間の幅を広げることを目指した。」「答えのない議論も大切で、多様性を認めることにつながる。自分と考えが違う人、特に自閉症などの障がいがある人について、自分の内側にいる人なのか外側にいる人なのか、その人の力を借りてみようか自分の力を貸してみようかというお互い様の関係が生まれてくるのが芸術の世界。」「マイノリティのアフォーダンス(=環境のさまざまな要素が人に影響を与え、感情や動作が生まれること。)により、本人世界の美しさに気づき、展開・構造化する。」「閉鎖的である施設の問題点を利点に転換し、パブリックな場所の目的・制約を超えてパブリックとプライベートが融合し、彼らが楽しく万人が楽しめる福祉施設を目指したい。」など障がいのある人の芸術活動の魅力や、ご自身の活動で大切にされていることをお話しいただきました。用意していただいたDVDは、時間の都合上、お昼の休憩時間中に会場で上映しました。

続いて、実行委員会委員で北九州市を拠点とするホームレス支援の活動で著名な奥田知志さん(NPO法人抱樸(ほうぼく)理事長:第19回糸賀一雄記念賞受賞)から「いのちに意味がある~私たちは何を大切にしてきたのか~」のテーマで基調講演を行っていただきました。奥田さんは、「コロナが教えたこと」として、①全員が当事者になったこと②人間とは何かということ③いのちの大切さが優先であることを指摘されました。コロナで、人間と人間がつながり、世界がつながっていたことがわかった。みんなが生き延びようというこの期におよんで、今更「自国ファースト」と言っておれない。エネルギーを生む他者性の発揮により「いのち優先社会」はできる、というお話をされました。

そして、受講者に向けて、やまゆり園事件の犯人が、世の中のために良いことをしたという確信の基準として、経済概念に偏重した「生産性」があり、糸賀氏が「自己実現が生産である」と語られたことと対比されました。「生産性の圧力」の元に生きている同じ「時代の子」として、事件を起こした彼に対して、あなたは何を語るのか?という宿題が出されました。

初日の午後は、今回のフォーラムに向けてNHK厚生文化事業団の福祉ビデオライブラリーに登録されたNHKスペシャル・ラストメッセージ第6集「この子らを世の光に」(2007年3月放送)の上映と、番組を制作した牧野望(のぞむ)チーフプロデューサーのトークが、とんがるちから研究所の竹岡寛文さんによるインタビュー形式で行われました。

Q1 番組で福祉の業界に入り込むときに気を使うこと・配慮することは? A1 福祉現場に入るときは、他の取材とは違うある種の緊張があり、ちょっと身構えてしまう。それが福祉と世の中との距離かもしれない。

Q2 番組のなかで表現しきれなかったことは? A2 どうやったら一番コンパクトに伝わるか取材内容をそぎ落としていくと、どうしてもキレイになってしまう。この番組でも、糸賀さんの日記をたくさん読んだが、結構ドロ臭いことが書いてある。聖人君子だけでなく、もっと幅のある人であったということが伝えられなかった。

Q3 福祉のことを話すのはおこがましい、とよく言われるが? A3 自分が感じた違和感や伝えたいことが1時間の番組に詰まっており、観ていただき、どう感じてもらうかが仕事であり役目である。それを超えて言葉で伝えるものではない。取材の時に、職員の皆さんに良い通訳になってもらっている。番組を作るときの原動力は、通訳の役割を果たしてくれる職員で、助け舟になってくれる。障がいがある人の可能性を引き出し、隠れて気づかないことの発見者となる。糸賀さんも悩んで当事者に学んで発見したと言われている。発見者と通訳者がまわりにいることが、とても心を強くしてくれる。発見者であり通訳者であったはずの相模原事件の犯人が、そういうふうにならなかった、ということをとても感じている。

竹岡さんから、「通訳者である支援者からの言葉を聞きながら、牧野さん自身もそれを社会に伝えるポジションで、翻訳のような仕事をされている。さらにそれを増幅させて、福祉の現場から福祉の仕事とは関係のない人たちにも伝える形で番組になった」とのまとめがあり、上映&トークが終了しました。

一般参加者と研修参加者がともに参加する共通プログラムが終了したのち、学生・新任者グループと中堅職員による語り部養成研修グループに分かれて、2日間のグループワークが始まりました。

学生・新任者グループは、7人が参加し、「バリバラ」でおなじみの玉木幸則さんと滋賀の救護施設で働く新採2年目の御代田さんが進行しました。福祉専攻でない学生から、異業種から転職して福祉の仕事を始めた方まで、様々なバックグラウンドの方が集まりました。1日目は、前半の講演2本とビデオ鑑賞&トークの振り返り。自己紹介をして2グループに分かれ、単なる感想ではなく、疑問やモヤモヤした点までツッコんで意見を交わしました。「入所施設で、個別支援をどう実現させるのか?」「大変だけど面白い、楽しい、という感覚を現場で持ち続けるには何が必要なのか?」など議論は、予想以上に盛り上がり、予定時間を30分オーバーして3時間以上のグループワークとなりました。

語り部養成研修には、サービス管理責任者、相談支援専門員、地域包括ケア推進官など管理職の方16人が参加しました。密を避けるため1グループ4人の受講者に限定し、4テーブルに分かれ、各テーブルに1名ずつメンターを配置しました。地元鹿児島県の(社福)ゆうかり理事長の水流さんがワークシートとスライドを用いて進行し、補助役として、とんがるちから研究所の竹岡さんが配置につきました。メンターと兼ねて埼玉県で活動する(社福)清心会の岡部さんが助言者としてサポートしました。岡部さんは、初年度からワーキンググループのメンバーの一員として参画し、各地でのメンターを務め、昨年度の全体フォーラムでは、シンポジストとして登壇していただいており、コロナ禍で所属法人も大変ななか、駆け付けていただきました。

最初に、言語以外のコミュニケーション手段により誕生の月日順に並ぶ、という恒例のアイスブレイクでグループメンバーの関係づくりから始まり、初日は、①基調講演等を見て感じたこと、共生社会とは何か等の個人ワークと模造紙とポストイットを使用してのグループ共有、その状況についての発表がグループごとに行われました。

発表に対して、牧野さんから講評があり、日々の仕事のなかで、共生社会と思えることを沢山発見し感じてしていることへの評価や、生きづらい・生きにくいという言葉が世の中で結構言われている現実についてや、一つの言葉をえぐり考え方が変わっていくことで共生社会という言葉の溝や幅を感じた、というお話しがありました。

2日目のセッションに向けて、相模原障がい者殺傷事件を振り返り、様々な意見や価値観と向き合う時間を持ちました。今年度のテキスト資料には、3月に宣告があった判決と事件を綿密に取材した神奈川新聞社の記者座談会を追録していますが、実行委員会座長代理で一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会の久保厚子会長から受講者に向けて、事件直後の本人・家族の不安な気持ちと声明文やメッセージを出した経緯や犯行に賛同する声があったこと、判決終結に対する残念感、記者座談会で紹介された犯人の主張や基調講演での奥田さんの解説などを話していただき、「自分も含めて誰にも心の奥底にある差別的意識をどうコントロールするのか。答えが出ずに、とてもモヤモヤしてつらいかも知れないが、是非、自分の弱さを認め、みんなでどう乗り越えていくのか議論していただきたい」という熱いメッセージをいただき、初日の幕を閉じました。

2日目は、②やまゆり園事件をどう受け止めるのか、全育連の声明への反応に対して各自が思うところをグループで共有するセッション③職場や地域で取り組む基本理念普及のアクションプランを各自が考え、グループでブラッシュアップするセッションが行われました。

2日目のセッション開始前、学生・新任者と中堅職員のグループとが一緒になり写真撮影を行いました。皆さんの清々しい笑みが、モヤモヤ感を持ちながらも、明日からの行動につながる手ごたえを感じていただいたことを表しています。

学生・新任者グループは、「福祉とは?」「障がいとは?」という抽象的なお題からスタート。玉木さんからの講義も挟んで、福祉は「全ての人のために」あること、障がいは「社会や人の意識(こころ)の中に」あることを確認しながら、それぞれが対話の中で問いを深めていきました。

最後は、やまゆり園の事件と「共生社会」について。「植松氏の意見を全否定することは出来ない」「日々ギリギリの現場で、支援の質を高めるにはどうしたらいいのか」といった発言もあり、突っ込んだ意見交換となりました。最後は全体を通した感想を共有しながら、コロナ禍で人と対話することの少なかったこの時期に、改めてゆっくり言葉を紡ぎあうことの大切さを噛み締め、2日間のグループワークの幕を閉じました。

途中の講評として、久保全育連会長さんから、各人が作成したアクションプラン案の作成に向けて、受講者に期待するお話をいただきました。ご自身の最重度のお子さんを中心に家族がまとまったエピソードや、職員の犠牲や我慢のうえで成り立つようにならないように一人で抱え込まずにチームで乗り越えていくこと、施設をつくる際に反対運動したまわりの住民もいつも気にしてもらっておりある種のセキュリティになっていること、全部クレームと考えずに一旦受け止めて、親御さんや地域の方とときちんと向き合って話し合いましょうというお話しがありました。

最後に、語り部養成研修のグループワークが終了した後、主催の厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課の鈴木正宏係長から閉会の挨拶があり、今回の研修が、マニュアルがなく、共生社会とはどういうものかという漠然したなかで始まり、大変だったでしょうという労いや、福森氏が講演で言われた“自分を大切にする”ということの感想が述べられ、本事業を今後も行うためにも、研修参加の皆さんが研修の成果を持ち帰って、職場や身近な家族に伝えていただくことを期待します、というエールがあり、全てのプログラムが終了しました。

今年度のフォーラムがコロナ禍のなかで、日程が遅れながらも9月の鹿児島でスタートし、成功裏に終えることができたのも、一昨年度から熱心にプログラムを考え、実施を支えていただいた実行委員会やワーキンググループの皆さんと、講師や受講者のおかげですが、何よりも絶大なご支援ご尽力をいただいた地元協力法人の役員やスタッフや開催ブロックのメンターの皆さんのおかげです。

とりわけ事務局を務めていただいた社会福祉法人ゆうかりの皆様の献身的な働きと心配りに対しまして、言葉では言い尽くせませんが、心から感謝を申し上げ、報告といたします。

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