千葉開催回(2020年12月)レポート

【開催概要】

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[開催日]令和2年12月17日(木)・18日(金)

[会場]千葉県文化会館(千葉県千葉市)

[募集定員] 84名(一般60名/福祉職従事者16名/学生・新任者8名)

[参加人数] 75名(一般29名/福祉職従事者16名/新任者6名/出演者等2名/関係者22名)

[開催委員会構成法人](社福)フラット、(社福)千葉市手をつなぐ育成会、(社福)りべるたす、(株)ベストサポート、(社福)清心会、(社福)昴、(特非)エンジョイ・パートナーほっと

 

全国的に新型コロナウイルス感染症の再拡大が続くなか、首都圏開催となった共生社会フォーラムin千葉では、事前に開催委員会をZoomで行い、換気や消毒などが徹底された文化会館を会場とするなど、感染予防対策を十分に取ったなかで、関係の皆様方のご協力ご支援により、当初のスケジュールどおり2日間のプログラムで開催することが出来ました。

開催前日に、(株)ベストサポート代表の竹嶋信洋さんと事務局の江川達也さんはじめ開催委員会委員、メンター等の事前打ち合わせが行われ、並行して、事務局が受付で配布する資料の袋詰などを行い、スムースに準備を終えました。

初日の17日(木)朝8時半に開催委員会委員と事務局スタッフの皆さんが、会場の千葉県文化会館小ホールに集合し、受付や会場内の感染予防対策などの準備が進められました。

一般参加者として、千葉県ならびに東京都、神奈川県、埼玉県および栃木県から福祉施設・事業所の方々に加え、自治体、特別支援学校および千葉大学から参加がありました。中堅研修には、千葉県、東京都および埼玉県ならびに沖縄県から福祉施設・事業所および自治体から参加があり、学生・新任者研修には、福祉現場職員6名の参加がありました。フォーラムの方向性として“地域主体”を掲げていますが、コロナ禍による制約があるにもかかわらず、地元協力法人のご尽力による事前の周知や参加、さらには設備の整った施設の使用、経験豊富な運営スタッフと新規メンターの配置など、様々な面で行き届いた配慮をいただきました。

フォーラムは、(特非)エンジョイ・パートナーほっと代表理事の下里さんの進行により厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課の源河課長による主催者挨拶があり、シンガーソングライターの松本佳奈さんによる心に響く言葉と演奏が交差する素敵なプログラムで始まりました。松本佳奈さんは、母子家庭に育ち、母親の価値観との衝突やいじめで不登校となった経験や、過集中や注意欠陥など自身の特性で”自己責任”社会との折り合いがつけられず悩んだことから、誰もが尊重される社会を目指して活動されています。参加者からは、「普通って何、“私は私”と思ったことがある。“大人と子どもは対等”という言葉が響いた」「松本さんのような研修プログラムを今まで受けたことがなく、とても新鮮で驚いた。言葉や演奏一つひとつにメッセージが込められていて感動した」という感想が届けられました。

続いて、実行委員会委員でジャーナリストとして長年活躍された野澤和弘さん(植草学園大学副学長・糸賀財団理事)から基調講演がありました。

最初に、やまゆり園事件の概要、被告の主張、福祉関係者の視点(施設での勤務中の出来事や人間関係の中に動機につながる何らかの要因があったと見るのが常識)、刑事裁判での被告のことば(障害者はかわいい → 重度障害者には生きる価値がない。社会を不幸にするという飛躍)、横浜地裁で断定された動機(やまゆり園での勤務経験を基礎として形成された)、野澤さんが委員として参加された神奈川県設置による「検証委員会」の調査の経緯と結果(長期間に及ぶ身体拘束の実態等)、やまゆり園等からの反論、12月に行った現場視察とヒヤリングの結果などが紹介されました。

そして、「育成会の声明文に対して批判の投書やメールが結構多くきた。犯人の確信(少子高齢化や医療技術の進歩で社会保障の財源が逼迫し社会の余裕がなくなるなか、重度障害者を養うには、ばく大なお金と時間が奪われる)と同じように思う人が意外に多いということを認めざるを得ない。このような思潮に対して、我々は深いところから“対抗軸”をもう一度構築していかなければいけない。福祉の原点を思い出して、福祉の仕事の素晴らしさを職場から確認していく流れをつくる必要がある」という提言が、戦後間もない優生思想の暴風のなかで発せられた糸賀思想(この子らを世の光に=どんな重症の子どもたちも光っており自己実現している)の紹介とともにありました。

さらに、犯人の確信の背景にある優性思想について、代理母出産、出生前の遺伝子診断による中絶など知的な能力や身体的優位性を求める現代の潜在的な優性思想の圧力の高まりがあることを指摘されました。「大変なのは障害者だけではなく、やまゆり園事件の後も人工透析患者の治療打切りや二人の医師によるALS患者の嘱託殺人があった。現実的に命を考える時代であり、何を失っているのか、我々は福祉の現場から考え、なぜ困っている人にカネを出すのか?という問いに正面から答えを見つけないといけない」と提言されました。

また、「重度障害者にはアートで見られるように潜在的な価値を持ち、大江健三郎氏など重度障害児の親たちがあらゆる分野で影響を受けている」とお話され、「命はその人固有のものであるが、私たちは、家族や愛する人との感情の連なりのなかで生きていて、時間や幸福感を共有する関係性のなかに命の輝きが現れる」ことを、育成会の機関誌特集号に掲載した家族の幸せな写真や新聞記者が丹念な取材でWEBに掲載した被害者家族のインタビュー記事とともに紹介されました。糸賀一雄氏の『この子らはどんなに重い障害をもっていても、だれと取り替えることもできない個性的な自己実現をしている』『その自己実現こそが創造であり、生産である。私たちのねがいは、重症な障害をもったこの子たちも立派な生産者であることを、認めあえる社会をつくろうということである』という共生社会に通じることばを紹介され、「何かその場で物をつくることや富を生み出すことはできないかもしれないが、重度の障害者の存在というものは、周辺の人たちに大きな影響力を与えているということをもっと知ってほしい」とお話しされました。

その実例として、「東大生の自主企画・運営の“障害者のリアル”ゼミで、瞼と唇の動きで話されるALS患者の岡部さんからの『体が動かないのは確かに不自由だが、心が動かない不幸の方が、私には耐えられない』君たちの心は動いているのか、という問いかけに学生たちは言葉を失い、価値観を揺さぶられた」という紹介があり、ゼミの参加者で厳しい福祉の現場に飛び込み、『やっと本物の社会と繋がることができた』という青年と、同じく施設で相談員として働くLGBTの特性がある青年のお話がありました。また、いじめ・虐待・不登校・小中高の子ども自殺者いずれも過去最多という生きにくさがある大変な時代に生きている子どもたちの心を動かす取り組みとして、最近行った高校への出前講座の紹介がありました。野澤さんの講義やかしわ哲さんのライブの授業を受けた生徒に“福祉の印象“のアンケートを取ったところ、授業前の『何とも思わない・障害者を助ける仕事・ただただサービスする仕事・大変な仕事』から、授業後は『なんだかすごい・人の心を動かす仕事・その人の生き方までサポートする仕事・大変だけど、楽しいこともあるんだという仕事』になったとのことです。

最後に、糸賀一雄氏の『知的障害のある子の生まれてきた使命があるとすれば、それは「世の光」となることである。親も社会も気づかず、本人も気づいていないこの宝を、本人のなかに発掘して、それをダイヤモンドのように磨きをかける役割が必要である。人間のほんとうの平等と自由は、この光を光としてお互いに認め合うところにはじめて成り立つということにも、少しずつ気づきはじめてきた』という言葉の紹介があり、「共生社会フォーラムを通じて多くの人に問いかけていきたい」というメッセージで基調講演が終了しました。

初日の午後は、今回のフォーラムに向けてNHK厚生文化事業団の福祉ビデオライブラリーに登録されたNHKスペシャル・ラストメッセージ第6集「この子らを世の光に」(2007年3月放送)を上映しました。普段は、上映後に番組を制作した牧野望(のぞむ)チーフプロデューサーのトークがあり、番組制作の経緯や背景、取材で福祉現場に入るときの感想、参加者へのメッセージをいただくのですが、今回は、新型コロナウイルス感染再拡大の影響で、上映のみとなりました。なお、機器の接続トラブルにより上映が幾度か中断し、視聴にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

一般参加者と研修参加者がともに参加する共通プログラムが終了したのち、新任者グループと中堅職員による語り部養成研修グループに分かれて、2日間のグループワークが始まりました。

新任者グループは、6人が参加し、「バリバラ」でおなじみの玉木幸則さんと滋賀の救護施設で働く新採3年目の御代田さんが進行しました。1日目は、自己紹介から共通プログラムを振り返り、松本佳奈さんのパフォーマンスについて、自身の生い立ちや特性、自分らしい暮らしについて、一人ひとりが語る時間になりました。野澤和弘さんの基調講演、糸賀一雄氏のNHKスペシャルについても様々な角度から対話を行いました。

中堅職員による語り部養成研修には、施設・事業所の管理者、サービス管理責任者、児童発達管理責任者、相談支援専門員など管理職の方15人が参加し、適正規模のグループ編成を保つため、メンター経験もある竹嶋さんが受講者に加わりました。密を避けるため1グループ4人の受講者に限定し、4テーブルに分かれ、各テーブルに1名ずつメンターを配置しました。全体進行は、本年3回目となる埼玉県の下里さんがワークシートとスライドを用いて進行し、とんがるちから研究所の近藤さんがサポートしました。助言者は、当フォーラムのレギュラーメンバーで、メンター・助言者・全体進行のオールラウンドプレーヤーとして活躍されている埼玉県の(社福)清心会の岡部さんと(社福)昴の丹羽さんが務めました。丹羽さんは、今回、メンターとの掛け持ちです。

最初に、言語以外のコミュニケーション手段により誕生の月日順に並ぶ、という恒例のアイスブレイクでグループメンバーの関係づくりから始まり、初日は、①基調講演等を見て感じたこと、共生社会とは何か等の個人ワークと模造紙とポストイットを使用してのグループ共有、その状況についての発表がグループごとに行われました。

2日目のセッションに向けて、相模原障害者殺傷事件を振り返り、様々な意見や価値観と向き合う時間を持ちました。今年度のテキスト資料には、3月に言い渡しがあった判決と事件を綿密に取材した神奈川新聞社の記者座談会を追録していますが、実行委員会座長代理で一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会(全育連)会長の久保厚子さんのビデオメッセージをプログラムに加えました。そのなかで、事件直後の本人・家族の不安な気持ち、声明文やメッセージを出した経緯、犯行に賛同する声があったこと、判決終結に対する残念感、記者座談会で紹介された犯人の主張などの紹介をいただきました。そして、重度の障害がある方の親として「よくコケるから「安全のために」車いすにしばるということが日常的にあったと聞いた。親は“安全であってほしい”と思っても、しばってほしいとは思っていませんよっ!」という強い思いと、また、入所施設・通所事業所の経営者としての立場から、「自分も含めて誰にもある心の奥底にある気付かない差別的意識をどうコントロールするのか。答えが出ずに、とてもモヤモヤしてつらいかも知れないが、是非、自分の弱さを押し込めるのではなく認めながら、みんなでどう乗り越えていくのか議論していただきたい」という熱いメッセージがありました。

今回、助言者として参加していただいた全育連専務理事の田中正博さんから「テレビが『障害者は要らない』と言っていると当事者の皆さんが受け止め、非常に怯えていた。そこで、本人たちに落ち着いていただくため、本人向けの声明文のなかでも『日常を取り戻してください』とお話した」という補足がありました。また受講者に向けて「犯人は一体何者だったのかということを考え、自分と重ねてほしい。自分たちが持っている障害者観ひいては人間観が重要になる。明日は、オープンな気持ちで、思いをぶつけ合ってほしい」という助言があり、初日の幕を閉じました。

2日目は、②やまゆり園事件をどう受け止めるのか、全育連の声明への反応に対して各自が思うところをグループで共有するセッション ③職場や地域で取り組む基本理念普及のアクションプランを各自が考え、グループでブラッシュアップするセッションが行われました。

午前のセッションで感情の源泉を探ることについて、岡部さんから「私たちが日々物事を考えるとき、いろいろと湧き上がる感情があるが、なぜその感情に至ったかを考えることはなかなかない。そのことを探るのが“源泉を探る“ということ。感情とは何か、よく言われるのは”喜怒哀楽“であるが、それ以外にもいろんな感情がある。しかしそれをなかなか言語化することがない。自分が今回のテーマに沿って、どのような感情だったのかを、はかなさとか切なさ、もどかしさ・もんもんとする気持ちとかやるせなさなど喜怒哀楽だけではない、微妙な感情を言葉に表すことも大切な作業で、なぜその感情になったのかを掘り下げてほしい。」「一日一日、時間に追われ仕事や生活をするなかで、立ち止まって物事の本質を考えることは、なかなかない。ただ、その感情に至った訳がいろいろあり、普段している仕事やその背景が源泉であったり、生い立ちが源泉になっていたりする。なかにはよくわからないということもあるが、是非立ち止まってもう一度考えてほしい。」「自分のなかの感情を言葉で表しにくいと思うが、誰かが言ってくれたことがすごくフィットしていて、その言葉に出会えることがあるので見逃さないでほしい。この研修自体は、学んで終わりではなく、持ち帰って、また新たな人に語り継ぐことがすごく大事。そのときに自分が持っている言葉の引き出しがたくさんあるようにするため、誰かが発した言葉が自分にとって素敵で、持ち帰ったときに使いたいなという言葉を忘れないようにしてほしい」という助言がありました。

午後のセッション開始前、新任者と中堅職員のグループとが一緒になり、亥鼻城(いのはな城:通称千葉城。千葉氏の初代当主である千葉常重が平安時代に築城)跡地に再建されたお城(郷土博物館)を背景に写真撮影を行いました。皆さんの清々しい笑みが、モヤモヤ感を持ちながらも、今後の行動につながる手ごたえを感じていただいたことを表しています。

新任者グループの午前中のテーマは、「福祉とは」「障害とは」で、普段の現場では語ることの少ないテーマについて、参加者の意見を紡いだうえで、玉木さんから話がありました。午後のテーマは「共生社会とは」で、やまゆり園の事件へのそれぞれの思いを起点に、「何を指して共生社会と呼ぶのか」それぞれが自分の現場や利用者の顔を思い浮かべながら、言葉を探す時間になりました。

中堅グループのアクションプラン作成が終了した後、新任者グループが見守るなか、各グループのメンターから発表がありました。助言者を兼ねる丹羽さんからは「法人の経営者、就労系の支援者、県の差別解消法にかかわる相談員の方がメンバーで、アクションプランの内容もバラエティーに富んでいる。なかなか職場で話し合う環境にないので、そこをもう一回何とかしたいという方のプラン。就労に関して利用者さんも一緒に営業をすることで理解を広げるなど、企業や特別支援学校も巻き込んで共生社会を広げる取り組みをしたいという方のプラン。研修に来る前からオーダーがあり、警察学校で昇級した警察官に対する研修プランで、県の共生社会条例を全面に出しながら本研修をエッセンスに入れながら、障害者への理解を求め障害者が困ったときに助けが求められる関係性を築こうとするプラン。街の商店や近隣の人たちを巻き込んで自分たちの地域だけでなく三つほどの地域で行うプランで、共生社会を前面に出すのではなく、みんなが繋がったり語り合ったりそれとなく自然に困った人を支え合えるような“まちづくり”に資する“つがりんピック「つながる」”というネーミングのプランがあった」という報告がありました。

最後に、地元開催委員会委員長で受講者としても積極的に発言していただいた竹嶋信洋さんから関係者へのお礼と「“生きる意味のないいのちがある”“障害者は社会に不幸をもたらすだけだ”ということから本フォーラムが始まった。二日間にわたり内なる自分に向き合い、仲間と語り合った。今後、皆さんが職場や地域で、糸賀先生の“この子らを世の光に”という言葉をベースに“生きることが光になる”そんな社会をつくるキーマンになることを願っている。共生社会フォーラムで福祉の思想を学び実践し語る人に、とあるように、一緒に実践活動してほしい。寒いなかであったが、心ポカポカと温まる二日間だった。」という閉会の挨拶があり、全てのプログラムが終了しました。

今年度のフォーラムがコロナ禍のなかで、日程が遅れながらも9月の鹿児島でスタートし、10月には、地域分散型の新たな取り組みとして1日間の福祉職等研修会を4会場で開催し、12月には新潟に続き千葉でフォーラムを開催し、成功裏に終えることができたのも、当初から熱心にプログラムを考え、実施を支えていただいた実行委員会やワーキンググループの皆さんと、講師や受講者のおかげですが、何よりも絶大なご支援ご尽力をいただいた地元協力法人の役員、スタッフおよび開催地のメンターの皆さんのおかげです。

とりわけ、事務局を務めていただいた株式会社ベストサポートの皆様の献身的な働きと心配りに対しまして、言葉では言い尽くせませんが、心から感謝を申し上げ、報告といたします。

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